最近「Z世代で大流行」「Z世代に人気の商品」 といった宣伝文句をテレビや雑誌、インターネットなど、様々なところで見かけるようになりました。しかし、一口に"Z世代" といっても、そもそもどんな世代 のことを指すのか、なぜ今、注目されているのかについて、まだよく理解できていない という人も少なくないように思います。
そこで今回は企業向けにSNSマーケティング支援を中心としたビジネスを展開する、テテマーチ株式会社 のChief Communication Officerのふくままさひろ さんと、ブランドプロデュース事業部・ブランドプロデューサーの横田裕也 さんのお二人にZ世代の特徴や消費傾向をはじめ、SNSを活用したプロモーション方法など、ライブ配信コンテンツをZ世代に届けるためのヒント を探るべく、お話を伺いました。
取材:Jun Fukunaga 撮影:成瀬正規
Z世代とは何なのか
- テテマーチさんは、企業向けSNSマーケティング支援を中心としたビジネスを行われていますが、具体的にどういったサービスを展開されているのでしょうか?
ふくま: 弊社では、企業のSNSアカウントの投稿企画などを請け負ったり、SNS広告の運用、インフルエンサーマーケティングの企画立案、SNSキャンペーンなど、基本的には企業とそのターゲットとのコミュニケーションをSNSを軸に設計していくというサービスを展開しています。2021年にZ世代マーケティングを得意とする株式会社Honey Atを吸収合併し、若年層向けのマーケティング活動のご支援も強化しています。
- 最近、よくマーケティングの分野などでも名前が挙がる”Z世代”とはどういった世代なのでしょうか?
横田: Z世代とは、諸説ありますが1995年以降から2012年の間に生まれた世代のことを指します。この世代の特徴としては、生まれた時からインターネットが身近な環境にある"デジタルネイティブ"であることが挙げられます。
インターネットが身近であるということは、この1つ上の世代である1980年から1995年の間に生まれたミレニアル世代にも当てはまります。しかし、Z世代は、特に高速通信でインターネットを使える環境で育ってきた世代であり、インターネットやSNSをベースにして育ってきたことから、それらを当たり前のように使いこなすため、デジタルネイティブの中でも特にスマホネイティブと言われています。また、Z世代はインターネットやSNSのように色々な意見が飛び交い、可視化される環境で育ってきていることから、多様性への関心が高いと言われています。
ふくま: この世代は、リーマンショックで両親が職を失った経験があったり、多感な時期に9.11のテロ事件や3.11の震災など世界的に大きな事件が続いている世代でもあります。そういった影響によって、他の世代に比べて価値観が柔らかいとも言われています。
横田: それと環境問題への関心の高さもZ世代の特徴のひとつですね。この世代は物心ついた時からテレビで"ストップ地球温暖化"のようなCMを日常的に目にするなど、地球が温暖化していることが意識的にも染み付いていると言われています。
- なぜ、今、Z世代が注目されているのでしょうか?
横田: Z世代の消費傾向が強まっているためです。Z世代は今、世界中でおよそ25億人と言われていますが、これは世界人口の約32%にあたる数字です。2020年時点でアメリカでは購買の40%以上をZ世代が占めていますが、今後、この世代が社会に進出し、働き出して収入を得るとその購買力はミレニアル世代を上回ることが予想されます。そのため、メーカーの中ではこれから消費力が強くなる世代として、注目を集めています。
Z世代に向けたプロモーション・マーケティング
- Z世代にはどのような消費傾向が見られるのでしょうか?
横田: Z世代の消費傾向には、現実主義というか、コストパフォーマンスをしっかり見極めるという特徴があります。また、現実主義という意味では、例えば「なぜ、乾杯はビールじゃないとダメなのか?」など、他の世代では当たり前とされてきたことに対してゼロベースで考える傾向が行動様式にも見られますが、そういった価値観が消費にも反映されているように思います。
- Z世代向けのマーケティングではどのようなスタンスが好まれるのでしょうか?
横田: 先ほどお話したようにZ世代には色々な人の意見が聞こえてきて当たり前という感覚があるので、何か価値観を押し付けるよりも一緒にみんなで取り組んでいくようなスタンスのマーケティング手法が好まれる傾向があります。
以前のマスメディア一強の時代は、わかりやすいキャッチコピーをひとつ作った上で価値観を調整し、大量に作って、大量に売るようなことが主流だったと思いますが、最近は色々な人を巻き込むようなマーケティングがトレンドになっています。
具体的には「広く浅いもの」と「狭く深いもの」の2パターンがあります。Z前者では「新しい商品の味を募集します」というような形で、消費者に広く呼びかけて投票が多かったものを商品化するという、広く浅く色々な人を巻き込みながらファクトを作っていくという事例があります。また、後者では、企業が18歳以下のCFO(最高未来責任者)を募集して、若い世代と一緒に深くファクトを作り込んでいくような事例もあります。このように共感や共有できる部分を規模の大小に関わらずしっかり設けていくことがZ世代向けマーケティングでは求められています。
ふくま: 最近では企業が発信するコピー自体にもそういった要素が反映されるようになってきました。例えば、「この髪どうしてダメですか?」というような、ヘアケアブランドのコピーがありましたが、これは「こうであることが当たり前だったけど、実はそれって当たり前ではないんじゃないか?」という問題提起から始まるコピーです。
そういった意見を押し付けないコミュニケーションが生まれてきているので、今は企業と消費者のコミュニケーションのあり方も変わってきているように思います。
- Z世代にとっての情報源はSNSやインフルエンサーが中心なのでしょうか?
横田: 今はTwitter、Instagram、TikTokで情報を調べる人が多いため、どんな情報も最初のタッチポイントはSNSになることが非常に多いです。
2021年に公開されたLINEリサーチのインタビューでは、若い世代が参考にしている情報源ランキング上位10位は軒並みインフルエンサーでした。インターネットやSNSで手に入る情報にはあやふやな情報も多いため、その良し悪しもありますが、信頼される情報がメディアからSNSに移行していることは事実としてあるのかなと思います。
- Z世代向けにプロモーションする場合、どのようなクリエイティブが響きやすいのでしょうか?
横田: 最近、Z世代にウケている動画の傾向を見ている限りだと、同じ動画でもテレビ、YouTube、TikTokではウケるものが違うように思います。
例えば、YouTubeの場合は、テレビでは使わないようなジャンプカットという編集手法を使い、「えーと」、「うーん」などと言っている時間をカットすることで動画のテンポを良くしています。ただ、それがTikTokになると、今度はもっと早口で話したり、より素人っぽさが残る動画が求められるなど、プラットフォームによって、視聴者から求められるものは、それぞれ違います。
もうひとつ言えるのは、昭和や平成初期といった時代が、この世代にとってはもう少し遠いものになったということですね。これまで"昭和"という言葉には懐かしく、どこか温かみがあるような印象があったと思いますが、それが今は、一昔前の"大正ロマン"のようにある種のファンタジーに近いものになってきたというか、時代のイメージがもう1段回引き下がりました。だから今、昭和や大正ロマンのようなレトロなイメージのクリエイティブは、これまで自分たちが触れたことがない、ある種の新しいものという感覚でZ世代は捉えています。
- こういった価値観とSNSは結びついているのでしょうか?
横田: そうですね。SNSが寄与するところも大きいと思います。例えば、最近、TikTokで昭和の曲がリバイバルして、すごくヒットするということがありましたが、この場合も、Z世代がそういった曲を聴いた時にこれまで聴いたことがないものだったため、逆に新しいものとして捉えられることがありました。それで昭和の曲を使った動画が一斉にアップされ、結果的にリバイバルヒットに繋がりました。
ふくま: それと今は時間やコンテンツの消費の仕方がこれまでとはかなり異なります。例えば、以前はテレビの前でゆっくり動画を見ていたと思いますが、最近は移動の隙間時間に動画を見るようになってきました。そういった可処分時間の奪い合いのようなことが起きているため、長い動画が見られなくなってきました。それとみんなが隙間時間で得られる情報を欲しているので、遅くて長いものは受け入れられにくくなっています。
ただ、この傾向はZ世代に限ったことではありません。Z世代はTikTokの早口動画などに普段から親しんでいるため、こういった感覚を他の世代よりも先に享受していますが、今後、上の世代でもそれに慣れてくるに連れて同じような状況が起こるはずです。
Z世代のファンとのコミュニケーション
- ZAIKOでは音楽やお笑い、演劇などさまざまなライブ配信イベントのチケットを取り扱っていますが、コロナ以前のライブ配信の多くは無料で配信されていたこともあり、視聴者の中にはそういったコンテンツはまだまだ無料で楽しめるものと捉えている人も少なくありません。もし、そのような人に有料でも購入したいと思ってもらうにはどういったものを提供する必要があるのでしょうか?
横田: 今は世の中に様々なコンテンツが溢れているため、単純にライバルが多くなっています。どのタイミングでこれまで無料でライブ配信を楽しんでいた人が有料チケットを購入したいと思うかについては、個人の趣向に寄るところが大きいと思いますが、1つ言えるのは、最初の1回目が重要になってくるということです。
最初の1回目で有料チケットを買って満足した人であれば、その後も継続して有料チケットを購入していくと思いますが、そのためには初回の購入ハードルをいかに下げることができるかが大切です。
特にこれまでのライブ配信コンテンツは、無料で公開されていることが当たり前で、限定公開コンテンツのようなものは少なかったと思います。そう考えると例えば、この時間しか配信しないというような限定的な条件を設けてみると良いかもしれません。
ふくま: ライブ動画にしろ、短編動画にしろ、動画を配信する人の信頼性も重要なポイントだと思います。この人が配信する動画であれば、お金を出してでも見たいと思ってもらう、購入する側に応援したいという気持ちを持ってもらうためには、ファンからの信頼性を高めていく必要があると思います。
最近は推しに対して投資することを惜しまない"推し活"が流行っていますが、今は以前よりも普段からSNSを使うことでファンとの密なコミュニケーションが取りやすくなっています。また、ファンとしてもそのようなコミュニケーションがあることで、アーティストが憧れの人から手の届く存在に変わっていきます。SNSを使いながら、ファンとの結びつきを高めていくことができれば、何かしらの購買アクションには繋がりやすくなるはずです。
- SNSでファンと深く交流していくにはどういった方法が考えれますか?
ふくま: 例えば、何かイベントをする場合、自分のSNSは常に開示しておいて、実際に足を運んでくれるようなコアなファンにフォローしてもらう、何かリプライがあればそれに返すことで交流を深めていくようなことが考えられます。しかし、ここで重要なのは、そこで繋がったフォロワーをいかに広げていくかということです。この最初のコアなファンとのコミュニケーションを大事にしていくと、今度はそのファンがそこを広げていってくれるはずなので、結果的に外に広がっていくと思います。
それとこれはSNSのエコシステムの話になりますが、Twitterの場合だと、そんなにフォロワーが多くない人でも何か投稿がバズったら、自分のタイムラインに"誰々さんがいいねしました"という通知が表示されます。でも、その一次評価者は自分のフォロワーなので、その層に響く良いものを作っていくと、それが結果的に広がっていきます。
Instagramにしても、TikTokにしても最初に評価してくれる一次評価者はフォロワーなので、最近はそういったSNSのエコシステムからファンベースが広がっていくような傾向が顕著になってきました。
- では、SNSでファンベースを広げていきたい場合、具体的にどういったことを意識しておくべきなのでしょうか?
ふくま: コピーライティングと同じですが、まずはターゲットを絞ることが大切です。広く当たり障りのないものを届けようとすると、結局誰にも響かないものになりがちです。だから、自分はこの人に絶対これを届けたいという意識を持つことが大切です。
横田: これまでのメディアと違い、SNSは自分の好きと繋がれるという部分で広がってきたメディアなので、どの好きなポイントに目がけて刺しにいくかがすごく重要なんです。
SNSをする皆さんは、当然みんなに自分のコンテンツを届けたいと思っています。でも、みんなに好かれようとするのではなく、この人と特に仲良くなりたいとか、この人に喜んでもらうために発信したいなど、ターゲットをしっかり定める必要があると思っています。
- なるほど。自分たちのコンテンツをどこに届けたいか明確にするということですね?
横田: そうですね。例えば、有料の配信ライブチケットを販売するアーティストの場合だと、そのライブでファンが何に喜んでくれるかを考える必要があります。それが可視化されているのがSNSであり、ファンからのリプライだったりするので、そういったところをちゃんと見ていくことが大事だと思います。
SNSを利用する上で大事なこと
- ZAIKOでは、チケットを販売する側がチケット購入者のデータを見ることができますが、どのように活用していくとSNSでチケットを購入したいと思う人とエンゲージを高めていくことができるのでしょうか?
ふくま: データを見れば何らかの傾向がわかるとは思いますが、データ自体はそもそも何を知りたいかという前提があった上で必要になるものです。今はSNSでもユーザーデータは見ることができますが、何か目的があった上でそれに必要なデータを見ていくことが大切です。だから、データありきで分析しているだけだとその施策は失敗すると思います。
- SNSにはTwitter、Instagram、TikTokなどがありますが、これらをどのように使い分けていくといいのでしょうか?
ふくま: SNSは、自分の目的ごとに使い分けていくべきです。今はTikTokがすごく盛り上がっているので、なんとなく活かしやすいイメージがありますが、どんなことを発信していきたいかによって、選ぶSNSも変わってくると思います。
例えば、アーティストが自分の演奏スキルがわかる短い動画をファンに届けたい場合は、プラットフォームの特性を考えるとTikTokが適してるかもしれません。でも、もし自分のひととなりを知ってほしいのであれば、テキストで表現できるTwitterの方が適している可能性もあります。
要はそのアーティストがマーケティング戦略を考える上で、今どこがボトルネックになっていて、その部分を解消するために何をするべきかを考えた時に初めて使うべきSNSが見えてきます。なので、このプラットフォームにはこういう特性があるからこのSNSを使うのが良いというようなことは一概には言えませんし、目的によってSNSの使い方もカスタマイズしていく必要があります。
- SNSを運用していく場合、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?
横田: そもそもSNSを使うこと自体が手法というか、何か目的を達成するためのコミュニケーションツールなので、目的に合わせて運用していくとSNSの中での振る舞いも変わってくると思います。
例えば、認知を得たいというのであれば、発信数を増やしていく必要があります。また、ファンとのコミュニケーションを深めたいというのであれば、自分の投稿に対するリプライにいいねしたり、返事するなどしていけばコミュニケーションは深まっていきます。
もちろんSNSを運用していく上では、ハッシュタグの付け方や投稿頻度のように押さえるべきポイントもあります。でも、最終的に重要視されるのは発信する側の倫理観なんです。発信する側は、ユーザーが何が目的でそのアカウントを見にくるかによって、消費傾向や見る期待値も変わるということを考える必要があります。SNSではファンからの期待値に対して、何を提供できるかが重要になってくるので、そのやりとりがちゃんとできているアカウントは伸びていく傾向にあると思っています。
ふくままさひろ
1990年生まれ。学生時代、クラブイベントやファッションショーの運営を経験。大学卒業後、2社を経てテテマーチ株式会社に入社。同社にて、企業のSNSコミュニケーションの企画提案、及び自社のマーケティング企画等を兼務。アドテック東京2019・2020公式スピーカー、個人の活動としては、20代のマーケターイベントの企画や、chill outをコンセプトにした200人規模のイベント等を開催している。趣味は囲碁とファッションとTwitter。
横田裕也
1996年生まれ。新卒でデザイン会社へ入社し、企画営業として学校、不動産、専門商社など幅広いクライアントを担当し、その後株式会社Honey Atでビジネスプロデューサー職を経て現職。ロジカル7割クリエイティブ3割で、課題抽出と情報整理を得意とする。
テテマーチ株式会社
テテマーチ株式会社は企業向けにSNSマーケティング支援を中心としたビジネスを展開しています。2015年の創業時より、身近なマーケットにおいて本質的な価値のある様々なWEBサービスを提供するというコンセプトのもと、SNS領域に注目し、今までに700社以上のSNSを中心としたマーケティング活動のサポートを実施しています。企業のSNSアカウントに関するコンサルティング、クリエイティブ制作、キャンペーンツール・分析ツールの開発・提供等、様々なサービスをもって企業のSNS活用の本質的な支援をしています。
https://tetemarche.co.jp