有料ライブ配信が支える“コロナ時代のエンタメ”とは?ZAIKOが語るチケット販売最前線

 新型コロナウイルスの感染拡大により、日本のエンタメ業界が大きな打撃を受けている。興行の自粛・中止をはじめとする損失について、4月18日に放送されたニッポン放送の特別番組『いま、音楽にできること』では、日本のスポーツとエンタメ業界合わせて3300億円という巨額が試算された。5月初旬の段階では当初、5月6日まで


 新型コロナウイルスの感染拡大により、日本のエンタメ業界が大きな打撃を受けている。興行の自粛・中止をはじめとする損失について、4月18日に放送されたニッポン放送の特別番組『いま、音楽にできること』では、日本のスポーツとエンタメ業界合わせて3300億円という巨額が試算された。5月初旬の段階では当初、5月6日までと定められていた緊急事態宣言は延長され、これまでに各自治体による自粛要請協力金が支払われることが決定しているものの、事業者や演者たちにとっては依然、先行きに不安が残っている。

 このような問題が表面化した今年3月から、感染拡大防止のための無観客配信イベントがオンラインを通して多数配信されている。そんな中、注目を集めたのはオンラインイベントの収益化、有料ライブ配信チケットの販売だ。

 その先鞭をつけたのが電子チケット販売プラットフォーム・ZAIKOが開発した有料ライブ配信機能で、同サービスはceroがいち早く導入したことで、広くエンタメ業界に認知されることになったのは記憶に新しい。

 ZAIKOによるとこのサービスはコロナ禍において、事業者や演者が有料でのライブ配信で収益をあげるだけでなく、“アフターコロナ”の世界においてもライブイベントにおけるオンライン/オフラインでの収益の複線化など多くの可能性を秘めているという。そんなサービスについて、成り立ちや強み、今後の展望などについて、ZAIKO株式会社のデジタルメディアマーケティング・大野晃裕氏とセールスマネージャー
の根岸奏枝氏に話を聞いた。(Jun Fukunaga)

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cero有料配信ライブが実現するまでの裏側

ーーZAIKOでは3月の時点で有料配信チケット販売システムをスタートさせましたが、実装までの経緯を教えてください

大野晃裕(以下、大野):2020年に5Gの商業利用が始まり、オンラインでのライブ体験がそれによって色々変わるかもしれないという可能性を感じていたこともあって、以前からそれを視野に入れつつ開発を進めていました。そんな時にコロナウイルスの影響で、イベント中止が相次ぎ、そのチケット販売を行っている弊社も危機を感じ、急ピッチで開発に臨むことになりました。弊社の社員の半数はエンジニアが占めているので、開発自体はスピード感を持って社内で進めることができたのは大きかったです。

ーーceroの有料配信ライブをきっかけにZAIKOのシステムにも注目が集まった印象があります。どういった経緯で実施に至ったのでしょうか?

大野:ceroが所属するレーベル・カクバリズムのチケットを弊社のシステムで販売していたこともあり、サービス開始のタイミングで案内させていただきました。その時、彼らもちょうど公演中止が決まっていたイベントがあったため、有料でのライブ配信に興味を持ってもらえたり、弊社のサービスを良く理解していただいていたこともあって、すんなりと実施が決定しました。有料ライブ配信自体は中止になった公演と同じ日に行われたのですが、決定後から5日間くらいのスピード感で実施された感じです。その際に弊社も彼らと連携しながら、システムの機能のうち、どれが必要か不要かについて、精査しながら進めていきました。

ーーシステム提供後にチャット機能や投げ銭機能が追加されましたが、今後、他にも機能の追加を要望するユーザーの声はありますか?

大野:そうですね。例えば、収録現場と視聴者の関係値を高めるために、オーディエンスの声を現場に届けられるようにしてほしいというような相互性に関するリクエストがあります。こういったものに関しては今後、5Gが普及し、実装されていく中で解決していくと認識しています。

根岸奏枝(以下、根岸):配信者と視聴者の間でのやりとりをもっとインタラクティブにしてほしいという声が寄せられています。また、投げ銭機能に関しても、視聴者がライブ中に投げ銭したことがシステムの画面上に表示されるようになれば、他の視聴者からの投げ銭を促進することに繋がるんじゃないか? といった声もあります。現段階では他の競合サービスと比較しながら、ZAIKOの強みになるものを取り入れていきたいと思っています。

ーーZAIKOの強みという部分では今後、どういった機能の実装が考えられますか?

大野:元々インバウンド向けの電子チケットを取り扱ってきたこともあり、海外の方へ向けて、ライブ配信を含めたコンテンツを届けるために、海外企業との連携を進めてきました。たとえば、音楽関係では中国のQQ音楽と連携をしていますが、これによりライブ配信含め、中国で配信事業を展開するための障壁をクリアできました。また、有料ライブ配信を見ながら投げ銭されている方も多いと思いますが、支援に対するお礼として何らかのリターンを付けることができるのも電子チケットの強みですね。例えば、コロナ収束後にイベント会場で何かに交換できる特典を設けておくことで、オーディエンスとの継続的な関係性を保つことが可能です。

ーーすでにZAIKOのそういったシステムを使ってコロナ収束後に会場で使えるドリンクチケットを販売している有料配信を見かけたことがあります。

大野:そうですね。コロナが収束して、イベントがオンラインからリアルへ戻った時に使えるチケットを用意することは、電子チケットを取り扱う弊社のシステムならではの部分だと思います。

ーー有料ライブ配信だからこそ視聴者ができる体験には、ほかにどういったものがあるとお考えですか?

大野:リアルのイベントは、会場に足を運んで参加した人だけが楽しむことができるいわばクローズドな体験です。一方ライブ配信は、これまでどちらかと言えばオープンな体験として認識されていました。しかし、今回のコロナをきっかけにチケットを買った人だけが楽しめる有料ライブ配信のようなクローズドなコンテンツの価値も見直されるんじゃないかなと思っていて。5Gを活用したリアルの世界では体験できないようなコンテンツを提供することができれば、よりそこに価値が生まれるはずです。

根岸:配信ライブはリアルのライブと違ってアーカイブが残るので、ライブ開始時刻に間に合わなくてもイベントに参加できるというのが通常のライブとは異なる点かと思います。主催者にとっても、チケット販売を継続できるのは非常に大きなメリットです。またクローズドな体験という意味では、”チケットを買った人だけが観ることができる”という付加価値があります。

ーー 5Gが普及すれば、大容量通信を活かしたXRのようなリッチコンテンツもライブ配信に活かせそうですね。

大野:5Gの特性でいえば、低遅延通信も現場と視聴者の間のタイムラグがなくなるという点で、大きなポイントになってきます。配信の現場と視聴者の声を繋げることもタイムラグなくできるようになりますし、そうなればライブ映像を観ながらアーティストと一緒にオーディエンスが歌うなんてことも可能になると思います。

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5Gとの好相性、そして有料ライブ配信の可能性は多ジャンルに

ーー 今年1月には須田景凪さんがau 5Gを活用して、ライブ会場から離れたところにいるファンが会場の映像を観ながらインタラクティブに参加できるライブイベント『uP!!!NEXT 須田景凪〜晩翠〜 powered by au 5G』も行なっています。

大野:ライブ配信と5Gの相性という面で、そういったテクノロジーの活用例が実際にあることに、今後の有料ライブ配信の可能性を感じています。

ーー では、逆に有料ライブ配信を行うアーティストやオーガナイザーなど、配信者にとっての有料配信のメリットはありますか? 例えば、ZAIKOで販売されている『スタンダップコメディライブ:おはようインコさんその5.5』の有料配信では、アーカイブなし、特典付きなど内容に応じてチケット価格が異なる価格で販売されています。

大野:それに関しては、リアルイベントでも例えば会場の席の種類によってチケット価格が違うことと同じようなことなので、オンラインと従来のライブとで共通している点かもしれません。ただ、何組かアーティストが出演するイベントで目当てのアーティスト1組だけを観たい場合も、リアルイベントではイベント単位でチケットを購入する必要がありますが、有料ライブ配信であれば、アーティスト単位でチケットを設定して販売することも可能です。そういったイベントを主催する側がファンのニーズに応えるための細かい設定を、配信者側が全て行えるのも魅力のひとつだと言えます。

またZAIKOでは、配信に関するユーザーデータも提供しているので、配信者はそれを分析することでオーディエンスの傾向を掴み、次の配信の施策立案に活かすことができます。例えば投げ銭機能では「どのタイミングでどのくらいのオーディエンスが投げ銭を行なったか」をデータとして把握することが可能で、それを配信者が戦略として活かすことができるなど、マーケティングツールとしての強みを持っています。

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ーー ZAIKOでは音楽を始めeスポーツ、インバウンドなど様々なイベントのチケットをこれまでに取り扱ってきましたが、現段階ではリアルイベントの開催はまだまだ厳しいという見解もあります。そのような状況ですが、今後サービスとしてはどのような展望をお持ちですか?

大野:インバウンドで言えば、旅行代理店の知人からは「観光客が戻ってくるのは来年の春以降になるかも」と聞いているので、依然厳しい状況は続くと思います。とはいえ、アフターコロナの世界でも、観光客にとって日本が魅力的な国であることは変わらないはずなので、そういった人の気持ちを繫ぎ止めるために、どうやって日本の魅力を伝えていくかを考える必要があります。そのために日本の観光スポット紹介にライブ配信を活用することなどは、旅行業界や各自治体とも連携して進めていきたいと思っていますし、eスポーツやファッション業界と連携していくことも考えています。弊社は元々iFLYERという音楽メディアからスタートしているため、現状、音楽コンテンツが多くなっていますが、今後はリソースも増やして、音楽以外のところでも関係を作っていけるようにしたいですね。

ーー 色々な業界と連携していくとのことですが、すでにこれまでZAIKOで取り扱ってこなかったジャンルの有料配信チケットで販売されているものの中にはどのようなものがありますか?

根岸:落語のようなこれまでお付き合いがなかった大衆芸能やお笑い芸人のネタ見せ、トークショーの配信に活用していただいたり、演劇では私立恵比寿中学さんの舞台公演を全5回にわたって配信するのに活用していただきました。この公演ではアフタートークも毎回メンバーを変えて配信したり、それを視聴している視聴者のコメントを拾ったりすることでファンとのコミュケーションの場としても利用されるなど配信ならではの試みが行われています。

大野:4月27日には、有料ライブ配信機能に主催者がセルフでライブ配信とチケット販売することを可能にした新ツール『ZAIKOストリーミング』の提供を開始しました。従来のサービスではZAIKOでライブ配信イベントを開催する場合、ZAIKO上でのアカウント登録や、イベントやチケットの設定を個別で行う必要がありましたが、この機能により、イベント主催者が特設ページのフォームからイベントの必要情報を記入し申請、承認されたイベントが予定した時刻にライブ配信をセルフでスタートすることが可能となります。これによりイベント主催者は、より自由にライブ配信イベントを開催することができます。

ーー 有料ライブ配信チケットを販売する場合、著作権に対する懸念から二の足を踏んでいるという声も一部であがってますが、ZAIKOのシステムを利用してライブ配信する場合、著作権処理はどのように行われるのでしょうか?

根岸:弊社ではJASRACとインタラクティブ配信に関する包括契約を結んでおり、例えば配信時に利用された楽曲の使用料が権利者に還元される仕組みを整えています。今、社会全体でもともと問題になっていたことが浮き彫りになっていますが、このこともそれに関係してくることだと思っています。

 著作権と著作隣接権では管理団体が別であったり、レコード会社によって対応が違う場合もあり、弊社のようなプラットフォーマーでは解決できない問題もあります。そういった中で事業者の方とお話ししていると、これをきっかけに何か変わるかもしれないという意見をよく聞きますが、それは「ここで変えないとみんなが倒れてしまう」という懸念の裏返しでもあります。ただ、ボジティブに考えた場合、今のようにライブができないとなった時にこそ、新しい社会のシステムができあがっていくきっかけが生まれると捉えています。

 この問題に関してはおそらくYouTubeのようなストリーミングサービスが出てきた時と似たような状況で、実際にYouTubeがJASRACやNexToneの著作権管理団体と契約するまでにはすごく時間がかかっています。ですから、実際はジャンルによっては今すぐ有料ライブ配信に踏み切れないということも事実としてあります。しかしながら、それに関してはみんなが連帯して問題解決のために働きかけることで変わっていく部分かと思います。

 弊社の考えとしてはミュージシャンやアーティストたちが作品からしっかり利益を得るためにも今ある制度や権利団体に対しては敬意は払いつつも、現在のような緊急事態になった時に既存のルールのせいで何もできないというのは違うと認識があります。こういった問題に対して、状況を変えていくために行動するというスタンスをとる弊社だからこそ、有料配信チケット販売システムの開発が早かったのだと思ってます。また問題に対して、どこをクリアすればいいのか? ということに関してはいつも社内や社外の方と話し合っていますが、今後はこの部分に関しても色々な変化が訪れると考えています。

大野:日本はそういった面でガチガチになっていることが足枷になっていて、海外展開などが遅れていることが事実としてありますが、実際に内閣府のワーキング・グループや政府と連携しながら今後、どうやって日本のサービスや良さを海外展開していくのかについても話してあっています。弊社としてはそういった流れに添いながら、事業を進めています。
 

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