【ライブレポート】柾花音のバースデーライブにみるバーチャル世界の未来

2021年8月28日-29日の2日間にわたって行われた、柾花音(マサキ カノン)のバースデーライブ「柾花音 Summer & Birthday Live 2021」。ZAIKOのプラットフォームにより生配信で開催された本イベントのレポートをもとに、バーチャル世界の未来について展望する。 ※先日公開された、柾花


2021年8月28日-29日の2日間にわたって行われた、柾花音(マサキ カノン)のバースデーライブ「柾花音 Summer & Birthday Live 2021」。ZAIKOのプラットフォームにより生配信で開催された本イベントのレポートをもとに、バーチャル世界の未来について展望する。

※先日公開された、柾花音のインタビュー記事はコチラ

新型コロナウイルスの感染拡大以降、各所でメタヴァース(仮想空間)事業が拡大している。Facebook社のCEO・マーク・ザッカーバーグが「FBはメタヴァース・カンパニーになる」と明言し、ARグラスを開発中であることも明らかにした。人気ゲームシリーズ「グランド・セフト・オート」を手掛けるRockstar Gamesは、「グランド・セフト・オート・オンライン」の中に“Music Locker”という仮想ナイトクラブを設置。今日までにMoodymann、Flying Lotus、Joy Orbisonらがこのプラットフォームで行われたイベントに出演している。

https://youtu.be/L6VtOjkWeR8

国内にも同様の事例は多数存在し、今年8月だけで大きな動きがいくつもあった。エイベックスが新会社「バーチャル・エイベックス株式会社」を設立し、GREEが今後2-3年で100億円規模の投資をメタヴァース事業に実施すると発表した。一方はライブパフォーマンスやタレントをリアルからバーチャルへ変換するインターフェース、他方はSNS的なプラットフォーマーとして、仮想空間に活動の幅を広げるという。

日本においては、主にVTuberを含むバーチャルライバー周辺からメタヴァースが発展している印象を受ける。もちろん、柾花音も例外ではなく、以前のオケ音源のライブからARテクノロジーを駆使したフルバンドセットへと進化していた。

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先日公開のインタビューでも言及されていたことだが、バーチャルな空間におけるコミュニケーションは多層的だ。「!」マークなどの記号や絵文字、長文で思いの丈を綴ったライバーへのメッセージ、アーティストのオリジナルスタンプ(ZAIKOではSTICKITS)…。テキストベースのコミュニケーションではあるが、若干のタイムラグを凌駕する熱量の高いやり取りがそこにはある。

何せ、2日目に至っては開演前からチャット欄が盛り上がっていたのだ。館内アナウンス(*インタビュー参照)の演出に我々オーディエンスは沸き立ち、ライブ開始10分前にして「かわいい」「助かる」のコメントが乱舞していた。

ZAIKOの場合、YouTubeやミルダムのチャット欄とは仕組みが異なっており、Twitterと連動したシステムが敷かれている。ZAIKOのチャット欄に投稿されたハッシュタグ付きのテキストは、Twitterのタイムラインにも反映されるのだ。つまり、これまで一般的だったクローズドなコミュニケーションがよりオープンな状態になっている。その配信が盛り上がり、チャット欄が加熱するほど、その熱狂はコミュニティを飛び越えて他の層に伝播する可能性がある。

もちろん、現行の配信者の多くが独自にハッシュタグを用意しており、SNSをいかにして盛り上げるかは不可避のテーマだ。しかし、意外にもプラットフォーム同士の互換性が整備されているツールは現時点では稀である。その点では、ZAIKOのチャット欄は革新的なのではないだろうか。実際、目視で確認する限りでは、柾花音のライブでもTwitterの回転率は高かった。

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投げ銭システムに関しても、白眉があったように思う。先述したように、ZAIKOには“STICKITS”というオリジナルスタンプ機能がある。配信者が自由にカスタマイズでき、独自のデザインを施すことが可能だ。メンバーシップに入る必要はなく、STICKITS単体で購入できる。すなわち、ZAIKOではライバーにスタンプを送ることがそのまま投げ銭として機能する。今回のライブでも、バースデーケーキや“ちびキャラ”にデフォルメされた柾のSTICKITSがチャット欄を飛び交っていた。

今年10周年を迎えたTwitchの登場以降、この新たなエコシステムはエンターテイメント界に革命を起こしている。チケット収入でも、グッズの売り上げでも、はたまたクラウドファンディングでもない、新しい経済形態。日常的に配信者の活動を追っている人ならば、投げ銭の重要性を理解しているはずだ。2020年のYouTube年間スーパーチャットランキングでは、日本のVTuberが上位を席巻しており、第1位の桐生ココ(元ホロライブ)は1億5907万2694円を稼ぎ出している(Playboardの集計を参考)

ちなみに、今回のライブの直後にYouTubeで公開されたアフタートークでも、オーディエンスから柾花音へのリスペクトと愛を表明する意味で投げ銭が行われていた。我々は家でライブ配信を観ているわけで、リアルな現場に赴くのとでは使う金額が大きく異なる。例えばライブハウスへ行く場合、交通費として電車賃やガソリン代、あるいはタクシー代にお金を割かなければならない。しかし配信ならばそれらが全て浮くのだ。そのお金を“推し”に投じられるのならば、我々は喜んで差し出そう。つまり、使う金額は以前とさして変化していないにも関わらず、我々はより直接的にアーティストをサポートできるのだ。

https://youtu.be/7tiEgCabZzg

記事の冒頭にいくつか根拠を示したように、ライバーコンテンツを含むメタヴァースの市場は今後確実に成長するだろう。アーティストのライブ形態も、今よりさらに多様化するはずだ。

柾花音のライブではZAIKOのチケット機能を応用し、購入金額によって視聴者が楽しめる内容が細分化されていた。2日間の通し券もあれば1日券もあり、その1日券の中にも様々なグラデーションがあった。例えば、後日アーカイブ映像を観る権利を得られたり、チケットの早期購入者には「紙のチケット」が贈られた。特典の有無によってチケットの内容を分けることもできる。

そして今後考えられうるのは、ステージの多層化である。今回のライブしかり、かの有名なフォートナイトとトラヴィス・スコットのコラボレーションしかり、ステージはひとつだった。

https://youtu.be/wYeFAlVC8qU

しかしメタヴァースは現在進行形でどんどん範囲を拡大している。ライブハウスは区画になり、区画はやがて街になるだろう。現時点で国内にも「バーチャル渋谷(原宿)」など、区画まではバーチャルワールドに実装できた例もある。今後はフジロックやサマーソニック級のメガフェスティバルが仮想空間に実装される可能性だって大いに考えられるし、実際にエイベックスがオンライン上で企画・運営した「Virtual Music Award 2021」は、フェス形式で開催された。

https://youtu.be/3oADuKkaAcA?t=1887

ZAIKOの担当スタッフによると、現段階でも同じ仮想空間にある複数のステージに対応できるという。フジロックのバーチャルバージョンが本当に実装されたとして、オーディエンスはリアルワールドの形式と同じように参加できるとのこと。

3日間の通しチケットを買い、プラットフォームにログインし、複数のステージを自由に往来する…。このような配信サービスが今後は増える可能性はあるが、現時点におけるZAIKOの特徴のひとつと言って差し支えないだろう。

なお、仮想空間の拡充を縦の展開とするならば、ZAIKOは“横”にも展開できる。すなわち海外への訴求だ。昨今のバーチャル界隈の状況を鑑みると、ほぼすべてのライバー/アーティストが複数の言語で展開している。「ホロライブ」や「にじさんじ」などのVTuber大手事務所に至っては、英語圏やインドネシア、韓国の視聴者に向けてコンテンツを制作している。柾花音の「歌ってみた」動画にも、海外のオーディエンスと思われる人物からのコメントが散見される。

https://youtu.be/TqB78gqPWRM

ZAIKOでは台湾やシンガポール、フィリピンや香港など、現地のメディアパートナーと組んだプロモーションを展開でき、グローバルにライブを届けることができる。

※ZAIKO独自の海外メディア展開についてはコチラをご覧ください。

確かにパンデミックは世の中のメタヴァース化を進めたが、その萌芽は感染症が世界を襲う前から現れていた。トラヴィス・スコットよりも前にDJのMarshmelloがフォートナイトでバーチャルライブを開催しているし、イギリスのインターネットレーベル〈PC Music〉のアーティストが中心となり、マインクラフト上でオンラインフェスティバルを実行している。いずれも2019年のことだ。従って、このメタヴァース化の流れは一時的な現象ではないのである。

https://youtu.be/NBsCzN-jfvA

柾花音がバーチャルな世界を介し、メキシコやインドネシアで大喝采を浴びる未来だって大いにあり得るのだ。彼女がグローバルアーティストになった時、ピンク色の内装が施されたバーチャルシアターが“聖地”として語られるかもしれない。これからの“アポロシアター”は、メタヴァースにも生まれるのかもしれない。すべては開かれた可能性なのだ。

原稿:川崎友暉

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