3月13日に行われたceroによるライブ配信<Contemporary http Cruise>。電子チケット販売プラットフォーム・ZAIKOの協力のもと、彼らにとって初の試みとなる、有料チケット制によるライブ配信は、様々なライブイベントが中止・延期を余儀なくされ、アーティストやイベント主催者にとって厳しい状況が続く中で、新たなアプローチとして大きな注目を集めた。
今回の両者の協力体制の裏で起こっていたことや、有料配信というシステムの今後の可能性について、カクバリズムの仲原達彦氏、ZAIKOのCOO Lauren Rose Kocher氏、大野晃裕氏に話を聞いた。
ー今回の有料チケット制に関して、いつごろアイデアが出て動き始めたのでしょうか。
仲原:
もともと3月13日はceroの仙台公演の予定だったのですが、1週間前に延期の判断をしたんです。
それと同じタイミングで、ZAIKOさんから新しいシステムとして、ライブ配信でも電子チケット販売ができるようになるという案内をいただきました。
その前後にNUMBER GIRLさんやaikoさんの配信など、キャンセルになったイベントのライブ配信の流れが生まれていく中で、ceroもライブ配信を考えていたので、有料でやるのはどうだろうとメンバーにも提案しました。
そのあとすぐZAIKOさんに詳しく説明を聞いて、準備を進めて、本当に一週間以内での話でしたね。
ータイミングもすごく良かったんですね。
仲原:
そうですね。ZAIKOさんからの案内がなくても配信はしてたとは思いますが、有料という選択肢を与えられたおかげで、メンバーとも、「有料ならではのことをしなきゃダメだよね」という、違う視点で話を進められたんじゃないかなと思います。
ーもともとZAIKOさんとはどのような繋がりがあったんですか?
仲原:
海外のお客さんにチケットを売る手段としてすごく有効だったので、今年の1月くらいに導入させてもらっていたんです。なので新しいシステムとして有料ライブ配信の話をいただいた時も、その便利さを知っていたから導入はしやすいだろうなと思っていました。
大野:
僕たちは、そもそも2020年に5Gがスタートするということで、ライブにおけるオーディエンスとの接し方も変わってくるだろうと考えて、電子チケットの要素を組み込んだライブ配信の準備を進めていたんです。そこで、急遽この新型コロナウイルスの感染拡大で多くのイベントが中止となり、急ピッチで開発を進めました。アーティストさんやイベント事業者さんへの支援として、有料でのライブ配信の必要性を感じていました。
ローレン:
弊社はもともとチケット会社なので、それがキーポイントだと思っています。通常の電子チケットを販売するシステムがあり、参加者からお金をいただく仕組みになっていた。電子チケットという有料のシステムのベースが最初からあったのは大きいと思います。
大野:
そうやって準備を進めていたところで仲原さんにご相談をさせていただいて、すごいスピードで今回のライブ配信が実現できたので、最初がceroさんで良かったなっていうのが正直なところです。
ー限られた時間の中で、カクバリズムさんからZAIKOさんへリクエストしたことなどありますか。
仲原:
電子チケットのシステムはこれまでも使用してましたが、配信の場合はライブとは違ってライブ会場ではなく携帯やパソコンにみなさんが集まる状態になる。なので、その際の導線などについてはすごく考えましたし、投げ銭のシステムなど、こういうのがあったらいいんじゃないかという提案はさせていただきました。
僕らが一番最初だったこともあり、試行錯誤しながらでしたが、ZAIKOさん内にエンジニアさんがいらっしゃるので、リクエストをどんどん採用して、できることは全部やっていただいて、実質3日程しかない中でページの仕組みなど凄く作りこんでもらえました。
ーそれまであまり前例のない有料制のライブ配信に踏み切れた一番の考えはどこにありましたか。
仲原:
いつまでこの状態が続くかもわからないし、今後ライブ配信が増えていくだろうという流れの中で、僕らは「このまま全員が無料で配信をやり続けるのは体力がもたないんじゃないか?」と思ったので「有料でもいいんだ」っていうことを伝えたかったんです。
YouTubeなどで投げ銭システムがあるのはもちろん知っていたんですけど、事前にチケットが売れたらやる側も安心できますし、お客さんとしても、チケットを買わないと見られない特別感みたいなのがあるのは良いですよね。
ーceroの配信はスタジオでのパフォーマンスでしたよね。そこは有料配信を意識してですか?
仲原:
僕らがライブをやる予定だったのは仙台だったので、そこに行って配信するのは現実的じゃなかった。なので、どこか空いたライブハウスを使う話もあったんですけど、その日って誰かがライブをやろうとしてた日なんですよね。NUMBER GIRLさんとか、自分たちがやろうとしてできなかった場所でやるから理由があったけど、誰かがやれなかったところでやるのは違うと思ったので、スタジオでやることにしたんです。
そこから、せっかく有料なんだから普段見慣れている無料のライブ配信とは違う、ライブ動画とも違う、ミュージックビデオに近いものの方がいいんじゃないかという演出についての話し合いを進めていきました。
ー配信の後のアーカイブについては最初から採用を決めていたのでしょうか。
仲原:
無料の場合でも、配信後にアーカイブが見れることはすごく重要だとは思っていました。しかし、今回は有料配信なのでできるだけその時間にみてもらいたいと思っていて。なので販売期間は短くなりますが、チケット自体はその日までしか買えないようにしていたんです。それが3日後まで買えると、みんな直前まで買わないか、評判を見て買うだろうなって思ったので。この後やる人達のためにも、”事前に買わなきゃいけない”という習慣にしたかったので、できるだけ評判を見て買う時間は少なくしたかったんです。
ーなるほど。では、実際に配信が始まるまではいかがでしたか。たくさん不安もあったと思いますが。
仲原:
全部心配でしたね。準備期間は数日しかありませんでしたが、ZAIKOさんなど関わってくれる方たちとずっと連絡を取りながら進めていました。
でも売れてる枚数が分かっていたので、「買ってくれるんだろうか?」という不安は無かったです。そういう意味ではすごくワクワクしてました。事前に売れている枚数が分かったので、きちんと予算を組むことができて、予定より良い機材を用意できたり、どんな形になるかがちゃんと見えていたので、そういう部分では安心はしていました。
ーチケットは予想よりかなり売れていたんですね。
仲原:
そうですね。正直、有料配信の温度感が全然わかっていなくて、100〜300人ぐらい買ってくれたらいいのかなと思ってました。チケット代が1000円だった事や一番最初だった事もあったのかもしれませんが、5000人を超えるような数だったので、自分たちのイメージしてたものよりは全然多かったです。
ーそれはかなりの数ですね。では、チケットシステム以外の準備で大変だったの部分は?
仲原:
バンドの演出プランですかね。まず、時間は通常のツアーなら2時間やるところを有料配信で2時間は観る側として厳しいと思って60分にしたんです。
あとは、ceroのアイデアで、ライブ後半でVIDEOTAPEMUSICが出てきて演奏をはじめて、さっきまで演者だったバンドメンバーがお客さんになる瞬間を作ったり、無観客の配信だからこそできる演出を考えました。
NUMBER GIRLさんの配信には、森山未來さんが出てきたり、カメラに向かって銃を打つ仕草があったり、そういうことで垣根を一個超える瞬間があったんですよ。そんなボーダーを超える瞬間を生む演出がしたいねって話がメンバーから出ていて。それで高城君のアイデアでVIDEOTAPEMUSICがいて、客席にメンバーがいく演出ができました。
スタッフ側からすると普通にライブをやった方がいいんじゃないかっていう不安もあったんですけど、実際にそれをやった事でただの配信じゃない奥行きが生まれたので凄く良かったと思います。
ー昔からよく一緒にやられてるVIDEOTAPEMUSICさんということがファンも嬉しかったと思います。
仲原:
そうですね。それに元々、仙台のアフターパーティでVIDEOTAPEMUSICがLIVEをやる予定だったので、仙台の人たちへ向けてという思いもありました。
ーなるほど。では、ZAIKOさん側では何か不安要素などあったのでしょうか。
大野:
初めての試みだったので綺麗に映るのか、配信が途中で止まらないか、といった不安はありましたが、それよりも有料でやることに対しての否定的な意見が出てくるのはある程度覚悟はしていました。それまでほとんどのアーティストさんが無料でやっていたことだったので。
しかし、結果的に否定的なコメントはなく、「こういう考え方って新しいよね」とか「こんな時だからこそちゃんとお金を払ってでアーティストを応援したかった」って逆に支持してもらえたので、すごくホッとしましたし、可能性を強く感じたところですね。
ーそういった様々な反響があったと思いますが、嬉しかったコメントや参考になったフィードバックなどありましたか。
仲原:
「映像がいい」「音がいい」「照明がしっかり入ってる」「有料でよかった」「アーカイブも見れるのがよかった」「60分ぐらいでちょうどよかった」と、VIDEOTAPEMUSICが出てくる演出も含めて、自分達が狙っていたところがはっきり伝わっていたのは嬉しかったですね。
実際のライブだと見る位置や周りの環境で受け方が変わってしまうこともあるので、アウトプットが一個しかないからこそのコントロールができる。そういう意味では自分たちの思い通りに伝えることができたのかなと思います。
それに、有料でお金を払った人しか観れないので、観る準備ができている人が集まってくれたと思っていて。無料だと自分の聴きたい曲まで飛ばしたりしてしまうこともあると思うんです。有料にしたことで皆さんがしっかり観てくれた感触がありました。
あと、自分的に新しい発見だったというか、意識はしていたけど気づけてなかったところで、「普段ライブにいけないから嬉しい」っていう感想があって。足が悪かったり、お子さんがいたり、どうしても普段ライブにいけない人達でも、配信なら観られるんだなというのは改めて思いました。今後ウイルスが落ち着いた後でも、有料配信チケットを売ることで、普段観れない人がライブを観られるようになるのはすごく良いなと思いました。
ーZAIKOさんはどうでしょうか?
大野:
本当にネガティブなコメントがなくて、仲原さんが言ったような行きたくても行けない人や収容人数の問題も今後クリアできる可能性を秘めているなと思えたのは良かったです。
でもこの結果は一番初めがceroさんだったからこそだと思うんです。ceroさんだからポジティブでピースなオーディエンスが多かったというのも大きいと感じています。あとは、お陰様で毎日たくさんのお問い合わせをいただいているのもとても嬉しいです。
ーその後の改善点などについてはお話しされましたか。
仲原:
僕らの時はライブ前の投げ銭しかできませんでしたが、今はライブ中もライブ後にも投げ銭が実装されていますし、僕らとしては今のところシステムへの要望は全くないですね。
ローレン:
新型コロナウイルスの影響でイベント業界がいつ通常の状態に戻ることができるのか誰も読めませんし、この状況が長く続くことを考えると、今後ライブイベントというものが生まれ変わるんじゃないかと思っています。
ライブにいける状態に戻れば多くの人がライブに行くでしょうし、配信がスタンダードになれば、小さいお子さんがいたり、遠くに住んでいたり、様々な理由でライブに行けない人が配信で参加できるようになる。今回のように困っているアーティストを支援するという考え方だけでなく、配信チケットのシステムを長く利用いただけるような方法を考えていきたいと思っています。
ーZAIKOのシステムは、日本だけなく世界中のファンへ向けて発信できるんですよね。
大野:
はい。海外でもすでにアメリカのラッパーがライブ配信の際に利用したり、ceroさんの配信でも世界中の様々な国から流入があったので、グローバル展開も視野にいれて進めています。
ーでは今後活用を考えている方に向けてのアドバイスなどあれば教えてください。
ローレン:
お問い合わせいただく際に、できるだけ具体的な内容を伝えていただけると嬉しいです。
あとは、ライブ配信だけでなく映像作品の公開イベントやオンラインイベントとしても活用していただけるので、イベントがキャンセルされた日に限らず、その後もファンのためのイベントとして利用していただければと思います。
ー映画や演劇なども影響を受けていますから、そういった方面でも活用できそうですね。
大野:
今既に、そういったご相談もいただいているんです。
ローレン:
他にもアーティストが楽曲の発売日に行うファーストリスニングパーティーやオンラインイベントであったり、プレミア公開、舞台裏やドキュメンタリーの公開など、様々な方法で利用していただけると思っています。
ただ、そういったことを実現させるためには原盤、著作権などの国際的なルールを変えていく必要があります。全世界をデジタルで繋ぐ時代だからこそ、権利システムや支払いに関して、もう少し更新していかなければいけないと思っています。
ー仲原さんからはアーティスト側の視点で、何か活用方法のアドバイスなどありますか。
仲原:
僕らはしっかり作り込んだ事をやったんですけど、ハードルを上げたかったわけではなくて、一番最初だったのもあって「ここまで本気だぞ」っていうのを見せたかったんです。なので、逆に全くお金をかけず、iPhoneで配信する際にも有料チケットを売れる可能性もあると思ってます。気軽にやることにお金を出してもらうのも良いことだと思うので、どんどんやっていければいいですよね。
最近は映像を収録すること自体、人が集まる状況で密閉空間を作るのでやりづらくなってきているのが事実なんです。だからこそ気軽な配信でも一度有料プランを持ってみるのはいいんじゃないかなと。
他にも、先日エルトン・ジョンが色んなアーティストと中継を繋げて配信していましたが、皆が家で弾き語りした映像をまとめて有料配信で販売してもいいと思います。
ー現状、カクバリズムでは今後の展開のアイデアなどありますか。
仲原:
もっと有料配信をやっていきたいとは思っていたんですけど、ライブ配信がしづらい状況でもあるので、生のライブ配信だけでなく、色々なバンドのライブ映像のアーカイブを配信してもいいのかなと思っています。
ーZAIKOさんは先日中国のQQ音楽と提携が発表されたばかりですが、こちらは今後どういう展開を予定しているのでしょうか。
ローレン:
中国はYouTube、Google、Facebook、Vimeoが全てブロックされているので、一般層にまで届けるには中国人の普段使用しているプラットフォームでなければいけないんです。その為にZAIKOからQQ音楽への配信が繋がることで、中国へのパイプを作ることができる。もちろん、それはなんでもOKということではなくて、中国政府へのコンテンツ申請などプランニングは必要です。しかし、弊社は台湾人、香港人、韓国人、様々な国のスタッフががいるので、日本のアーティストがマネタイズできるパイプを増やすお手伝いができると思っています。
ー日本からも中国のライブが見られるようになるのでしょうか?最近では日本のアーティストが中国などアジアでライブを行うことも多かったので、現地には行けないけどライブ配信で頑張っている様子を観たいというファンもいるのではないかと思うんです。
ローレン:
それも今後可能になると思います。最近では日本のアイドル文化がタイで大きくなって、タイで日本人アイドルがライブやる際には凄く盛り上がっているんです。タイでは独特なアイドルファン文化ができているので、そういったものに触れるのもすごく面白いと思います。
大野:
あと現在は新型コロナウイルスの影響もあり、マネタイズの手段として使っていただくことが多いんですが、そもそもZAIKOの強みの一つが購入者のデータを使って、CRMツールとしてマーケティングに生かせるところにあるんです。
有料配信にプラスでユーザーの動向を知ることができれば、今後の施策に活かせると思うので、そういった点にも価値を感じてもらえるように提案していきたいと思います。ceroさんの時はライブ視聴前だけだった投げ銭が今はライブ視聴中と視聴後、アーカイブ時でもできるようになり、投げ銭のタイミングも、どの曲をやっているときの投げ銭がいくらだったか、というデータ分析もできます。
仲原:
その部分が僕ら的にも面白くて便利な部分だと思ったんです。今回ceroだったらZAIKOで登録した人は5000人くらいいて、次ライブする際にはチケット販売の案内をメールで送れるんです。他にもその人たちだけにクローズドな配信イベントをプレゼントできたりしますし、色々なことができるなと思っています。
それに単純にチケットサービスとしてZAIKOさんがすごく便利なんですよね。海外の人が日本のチケットを買うのは支払いがすごく大変なんですが、ZAIKOさんを使ってもらえばスムーズですし、導入しておけば後からでも効果はあると思います。