2019年1月11日に生まれた電子チケットプラットフォームZAIKO。今ではその名前を広く知ってもらえるようになりましたが、その誕生のいきさつについては意外と知られていないかもしれません。
そこで今回は、ZAIKOのCEOであるマレック・ナサー(写真右)と、日本を代表するクラブミュージック情報メディアiFLYERのCEOであるサチ・ジョブ(写真左)にZAIKOはいかにして生まれたのかを語ってもらいました!
ZAIKO編集部:
ZAIKOが誕生したいきさつを教えてください。
マレック:
ZAIKOはiFLYERという音楽メディアのチケット販売機能を独立・分社化する形で生まれました。私とサチはiFLYERのファウンダーでもあります。iFLYERはチケット販売における素晴らしいテクノロジーを確立できていたのですが、iFLYERに掲載されているイベントのチケットしか販売できませんでした。そこで、iFLYERがカバーしていないジャンルのイベントも取り扱えるようにしたいという話が持ち上がったのがきっかけです。
サチ:
最初はシンプルにiFLYER Ticketというサービスを始めたのですが、それだとチケット販売できるイベントがクラブミュージックだけになって、サービスに限界があると思ったのです。それで何度か意見交換していくうちに、現在のチケット販売サービスを立ち上げることを思い付いたのです。
ZAIKO編集部:
なるほど。分社化するときに会社名を決めますよね。ZAIKOという名前はかなりユニークだと思いますが、その由来は?
マレック:
ネーミングは重要だとみんなで話していて、方向性を考えるときに、余計な意味の付いていない、ある意味「ドライ」な言葉にしたいと思いました。そのときにCOOのローレン(・ローズ・コーカー)が「ザイコ」という言葉をぱっと発して、それいいなと思いました。
ライブやイベントの在庫を持つという感じが日本っぽくてユニークだしいいなと。
われわれ西洋人にとって響きがクールだし、ストロングでパワフル。日本語では「在庫」は必ずしもポジティブな言葉ではないかもしれないですけど、そのイメージも自分たちで変えていける、ブランドを作っていけるとみんなで盛り上がりましたよ。
余談ですが、ハンガリー語でウサギを意味するというのを後で知りました(笑)。
ZAIKO編集部:
先ほど「iFLYERはチケット販売における素晴らしいテクノロジーを確立できていた」というお話がありましたが、iFLYERで電子チケットを扱い始めたのはいつのことですか?
マレック:
2010年です。最初に電子チケットを導入したのは「Rainbow Disco Club」というイベントでした。
サチ:
はじめは「Rainbow Disco Club」向けに電子チケットのシステムを構築したとも言えます。というのも、iFLYERはクライアント(=アーティストやイベント主催者)と近い距離で仕事をしていて、クライアントからの提案や意見を取り入れて具体化することがよくありました。電子チケットもそのような経緯で始めたものです。
マレック:
我々は最初、QRコードを使ってゲストリストを電子化しようと考えていました。紙のゲストリストをチェックするのって手間がかかりますよね。
ZAIKO編集部:
ゲストリストの電子化ということはつまり、ゲストAさん用に作られたQRコードをエントランスで読み込むと、システムが「Aさん来場」を認識するということですか。確かに効率的ですね。
マレック:
そうなんです。それでゲストリストを電子化しようというアイデアが出たのですが、いやそれならチケット自体を電子化すればいいのではということになったのです。QRコードを使った電子チケットという意味では、われわれはパイオニアと言っていいと思います。
サチ:
当時いくつかカンファレンスやビジネス向けの電子チケットサービスはあったものの、音楽業界に特化したものはなくて、その分野では先駆的でしたね。
マレック:
ただ、当時はまだ「QRコードって何?」みたいな時代だったので、普及するのには時間がかかりました。
ZAIKO編集部:
iFLYERはもともとチケット販売を目的として立ち上げられたのですか?
マレック:
いや、初めはイベント情報が掲載できるサイトとして立ち上げました。2006年のことです。誰でもアクセスできて、イベントページを作れて、アーティストの情報も載せられて、編集もできる……当時は説明が難しかったですがいまは簡単で「Wikipediaのようなもの」と言えます。
サチ:
運営していくうちに、次のステップはチケットを売ることだなと考えました。ユーザーがイベントを検索して、そこでチケットまで買えれば便利ですよね。
マレック:
ただ、当時はまだクラブイベントのチケットを事前に売るのが珍しいことだったので、クラブを回って営業して、徐々に普及させていった感じでした。
サチ:
最初は「クラブの前売りチケットなんかだれも買わないよ。大物アーティストのチケットでさえ5枚〜10枚程度しか売れないだろう。やるだけ無駄だ」と言われてしまったのですが……海外ではチケット文化が根付いてることを知っていたし、日本の音楽シーンでもチケット文化が進み始めていたので、とにかくチャレンジしたいと伝えたんです。
実際、前売りチケットを買うという習慣が日本で根付くまでは緩やかだったけど、クラブ業界のお客さんがチケットを買うことに慣れるようになって、ゆっくりと変化していったのです。音楽業界も変わったし、お客さんの意識も変わったし、それと同時にイベントまでのスケジュールの組み立て方など、PRプランなども変わっていった。
ZAIKO編集部:
iFLYERといえば「フジロックフェスティバル」の電子チケットを扱っていることでも知られていましたが、どういういきさつで取り組みが始まったのですか?
サチ:
2013年にこちらから、プレスリストのオペレーションをやらせてもらえないかとアプローチしました。先ほど話に出てきたゲストリストの媒体関係者版ですね。まずは小さいことから始めて……と考えましたが、それでも丸1年交渉して、翌年にようやく実現したんです。
初めて会ったときはiFLYERのチケットシステムを説明するというよりは「QRコードとは何か」という説明に時間を使った記憶があります。その後に丁寧なメールをいただいて、素晴らしいシステムということは理解できたけど先を行き過ぎているというリアクションでした。
マレック:
始まりはそんな感じで小さいところからスタートして、幸い大きな問題もなく快適に使っていただけたので、年々徐々に取り組みを拡大していきました。地道な努力ですよ。
ZAIKO編集部:
iFLYERは今後どうなるのですか?
マレック:
iFLYERはZAIKOの重要クライアントですよ(笑)。それはさておき、iFLYERはメディア業に集中します。もともとメディアとして立ち上がって、どこかチケッティングシステムで協業できるところがあればと考えていたけど、今回の分社化で大元のメディアに再びフォーカスすることになります。
サチ:
ZAIKOはチケッティングに関するカスタマーサポートなどインフラが整っているので安心して分社化できましたよ。
マレック:
大きいイベントの主催者も、小さいイベントの主催者も、アーティストもメディアも、みんなが平等に使えて、データベースやテクノロジーの恩恵が享受できる使いやすいシステムというのがZAIKOの理想です。
ZAIKO編集部:
最後に、CEOのマレックとしては、今後ZAIKOをどういう会社にしたいと考えていますか?
マレック:
私はiFLYERを始める前から起業家として活動していますが、ZAIKOではこれまでできなかったことをぜひやりたいと思っています。それは、すべてのスタッフが会社を所有するという考え方です。
例えば、ストックオプションということになるのですが、みんなが株を持つことで一緒に会社を作っていき、方向性も決めていく。さらに、いろんな意見を取り入れて業界における革新的で唯一無二の存在でありたいと考えています。
iFLYERではクラブ業界に新たな風を吹き込み、ダンスミュージックをもっと広めたいと思ってましたが、ZAIKOではクラブだけでなく音楽業界全体に向けて新しいことを提供していきたいと思っています。
ZAIKOは「チケット販売会社」としてスタートしましたが、世の中の流れによって想像していたよりも早く会社が成長しました。現在ではチケット販売にとどまらず、エンターテインメントの新しい体験価値を提供する会社になってきています。そして、これからもZAIKOは「イベント」の常識を変えていきます。